【研究の計画・方法】
研究目的
本研究は、高屋肖哲の画「千児観音」チャリティー美術展を通して貧困家庭やとりわけ在宅で生きる障がい児への支援の在り方と支援者の葛藤について明らかにすることを目的とする。
研究方法
- 研究デザイン:質的帰納的研究
- 研究対象:チャリティー美術展企画・運営に関わる保健・医療・福祉従事者
- 研究期間:2021年4月~2022年3月
- データ収集方法:フォーカスグループインタビュー
- 分析方法:M-GTA(修正版グラウンデッドセオリーアプローチ)
- 倫理的配慮:本研究では、調査対象者に研究目的、研究方法、研究への参加は自由、プライバシーの保護、研究終了後データ破棄について文書ならびに口頭で説明し、同意を得る。
研究スケジュール
2020年12月~4月
- フォーカスグループインタビューの構成について検討
- 研究対象者によるチャリティー美術展の企画・運営案の作成・完成。
- ワークショップの内容
- スマートフォン等による無料アプリによる家族の写真編集による物語制作
スマートフォンなどに保存してある写真データを無料アプリを使って30秒の物語(好きな音楽を背景に)に制作していただきます。制作された作品(展示の許可が得られた作品)は本美術展においてプロジェクターなどで投影し展示する。同時に開設するオンライン美術展のホームページにおいても展示する。 - 母と子の絆を描いた千児観音の塗り絵
高屋肖哲の3作品(①千児観音(「母と子の悲しみと慈しみ」)、②十種観音図、③両界曼荼羅図)を精密に印刷した「塗り絵」を子どもたちやお年寄りに配布し、自由に色を塗ってもらいます。完成した作品はラミネートなどの加工を施し、美術展の作品として展示させて頂きます。美術展の会場に誘うエントランスホールや階段などに天井から紐で吊るすなどの展示する。また、開設するオンライン美術展のホームページにおいても展示する。
- スマートフォン等による無料アプリによる家族の写真編集による物語制作
- ワークショップの内容
- 寄付金募集の方法と母子への配分方法の企画・検討
- クラウド・ファンディングへの申し込みなど
- 寄付金を配分する対象者と方法の明確化
- 第1回フォーカスグループインタビューの実施
2021年5月~7月
- 展覧会開催中は2つのワークショップで作成した作品を美術館に展示
- チャリティー美術展の収支報告及び振返り会議の開催
- チャリティー美術展に関する報告書作成関連した会議の開催
- 第2回フォーカスグループインタビューの実施
2021年8月~12月
- M-GTAによるデータ分析の実施
- 研究論文の作成
2022年1月~3月
- 研究成果の公開(学会発表および論文投稿)
- チャリティー美術展に関する報告書の刊行
倫理審査(倫理的配慮)
医療法人社団 萌気会内の倫理審査委員会の承諾を得る。
【期待される成果・波及効果、発表計画・継続性】
- 期待される成果
新型コロナウイルス感染症の影響でアルバイトが激減し、経済的に厳しい状況に追い込まれている学生らは、オンライン・ワークショップのインストラクターとして、謝金(寄付金)を受け取ることが出来る。また、オンライン・ワークショップへの参加者は写真編集のスキルを獲得することで、今後、本企画のインストラクターとして謝金を受ける機会を得ることが出来る。寄付者は本企画に参加することで社会貢献活動に寄与することが出来る。さらに、本研究参加者は、クラウド・ファンディングなどを活用し、ワークショップを通した社会貢献の支援システムを構築するスキルをもった人材育成に獲得することが出来る。その結果、独自の支援システムによって寄付金をスピーディーに効果的に、こども食堂、母子家庭や障がい児をもつ家庭、生活困窮者などへ届けることが持続的に可能となる。
謝金(寄付金)の対象者(50名)
・学生 ・子育て中の父母 ・特別支援学級の出身者や生徒 ・困窮に苦しむ美術関係者 - 波及効果
本研究による支援システムは、高齢者など支援を必要とする社会的弱者の支援として応用・拡大・展開することが可能である。その際に地域医療を担う医療機関をプラットホームとして安心して暮らせるまちづくりに波及効果を及ぼすものと期待している。 - 発表計画・継続性
- 研究成果の公開(学会発表および論文投稿)
- チャリティー美術展に関する報告書の刊行
- ホームページにて成果を公開する
- チャリティー美術展の企画・運営として継続・発展させる
【研究組織】
今までの実績
- 医療法人社団 萌気会
設立約30年となり、診療所を中心に外来、在宅ケアを展開してきた。現在(2020年)診療所3(このうち2つは在宅療養支援診療所、1つは発達障がい専門)、介護事業所13、こども園(市指定、認定こども園)1 - 社会福祉法人桐鈴会(市民の手でつくる)
地域で障がい者、家族とのゆるやかな会をつくり、40年にわたる活動をしてきた。その仲間たちが運動として誰でも自由に利用できる「夢のハウス」を目的としてきた。障がい者グループホームや障がい者相談事業など。 - 浦佐認定こども園は今年で10周年
定員210人、「こども第一」「自然とともに」を理念とし、障がい児も受け入れている。 - 今回のコラボレーションを繋げた高屋肖哲の生涯は、明治初年、岐阜県から笈を背負って上京し、狩野芳崖に師事し、現芸術大学の第1期生となった。将来を嘱望されながら仏画に専念しつつ市井に埋もれ、寺院に寄寓し、後半は日本美術史から姿を消した。しかし、その業績は最近見直され、千児観音の存在が、現今の社会の混乱、コロナ禍の蔓延するなかで注目されつつある。一方、子どもたちは、虐待、不幸な死、貧困のもたらす苦悩、とりわけ障がい児たちは不安にさらされている。こうした世情に肖哲の千児観音画図は、一筋の光明を与えるのではないか。
- コロナ禍の在宅ケアと地域の子どもたち
2017年4月に萌気会で発達支援外来が始まり、2018年8月からあやめ診療所として発達障害専門の診療所を開設。小児科の医師による診断、公認心理師によるカウンセリング・検査を行っている。南魚沼市の2020年の推計では年少人口(15歳未満)6,781人だ。こころ・体で悩んでいる方々の日常生活をペアレントトレーニング、リハビリ、投薬等を組み合わせサポートしている。 - 池田記念美術館の子どもたちとの交流事業
池田記念美術館では収蔵品の常設展示をするほか、年間10回〜12回ほどの企画展では、そのうちのいくつかは地元の子どもたちとの交流によって支えられている。全国各地から現代美術の作家30人以上が参加する秋開催の「八色の森の美術展+八色の森の子ども絵画展」は、プロの作家の作品と地元の子どもたちが出前授業で制作した作品を美術館に共同展示する。展示空間を舞台に「哲学対話」を実践するなど、行政・学校関係者からも高く評価されている。 - 2019年5月桐鈴会20周年を記念して三者(萌気会、桐鈴会、池田記念美術館)コラボレーションによって、芸術・医学・宗教融合「有沢昱有展」を開催。有沢昱有画伯は僧侶でもあり、日野原重明代表の「医療と宗教を考える会」のメンバーだった。
以上、コロナ禍により、一層不幸になる母子が千児観音を生み出した千児万児の祈りを受けて、とりわけ在宅医療や広くサポートを受けている母子への経済的、精神的援助を実現する方法を、研究・実践していきたい。