高屋肖哲の「千児観音」チャリティー美術展

ー開催にあたってー

実行委員長 黒岩卓夫(医療法人社団 萌気会 前理事長)

コロナ禍社会で苦しむ母と子

「千児観音」とは何かと、わかる人は少ないと思います。「千手観音」ではありません。

まづ二つの仏画を比べてみて下さい。画家は高屋肖哲といい、有名な狩野芳崖の高弟です。狩野芳崖は明治初年、日本全体が洋風かぶれになっている頃、日本画をいかに守って進化させるかに奮闘した中心人物でした。

狩野芳崖「悲母観音図」
高屋肖哲「観音菩薩図」(千児観音)

この芳崖の名作は「悲母観音」(明治二十一年、重要文化財)で、慈悲深い観音が一児をうみおとすような画になっています。一方、肖哲の「千児観音」を見て下さい。この観音様をみて皆さんはどう思いますか。何を連想するでしょうか。

二千十八年、東京の泉屋博古館で「狩野芳崖と四天王」展が開催され、その四天王の一人が肖哲であることがわかりました。

私は「千児観音」が目に入るや一瞬息をのみ、いったいこれは何事かと。驚きを隠せませんでした。

狩野芳崖は一観音に一児が、高屋肖哲は一観音に千児が。しかも一観音が千児に慈悲を与えたのではなく、不幸な千児たちがその悲しみと祈りから一観音を創出したのだと、それ以外には考えられないと思うよになりました。

実は、私はこの千児観音とは別の高屋肖哲の十種の線描写観音像(軸装)「十種観音」を所有していました。信用できる古美術商から”いいものだからまとめて持っていてほしい″と頼まれた手に入れました。

”不幸な子に幸せな母はいない″

私あこの肖哲の千児観音に目覚めた思いでした。

昨今、子どもへの虐待、子どもの自殺が増えています。それもコロナ禍によって一層貧困も増大しています。この千児観音の姿と肖哲の思想を活かして、多くの子どもたちに手を差し伸べ、とりわけ在宅生活をしている障がいのある子たちへの、チャリティー募金を提供したいと思います。

~母と子の悲しみと慈しみ、在宅療養の障がい児と母に支援を~

公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団助成事業

不幸な子に幸せな母はいない
不幸な母に幸せな子はいない

「ママ助けて・・・」「さっちゃんごめんね・・・・」さっちゃんは死んだ。父の虐待の果て。母は囚われの身になった。
「ぼく大丈夫だよママ・・・」痛みもつらい治療にも耐えて。母に抱かれて死んだ。白血病と小さな闘いの末。
3才の男の子は、他人の子の背で「水、水」と言って炎天下に死んだ。母の声も聞けず・・。
6才の女の子は、やせ細り収容所の堅い床で床ずれが疼き「リンゴ、リンゴ」と言って死んだ。満州のハルピンで難民となって。
母は栄養失調、神経衰弱、錯乱する10月の朝・・・。

肖哲の千児観音こそ、不幸な子や不幸な母に寄り添い、子と母に笑顔が蘇ることを願って千児万児に慈悲を。とりわけ、在宅で頑張っている障がい児へ支援を!

6/4㊎~7/5㊊池田記念美術館

入場料:一般500円(団体割引:20名以上400円)
会館時間:午前9時~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週水曜日(祝日等の場合は翌日)

  • 主催:高屋肖哲「千児観音」チャリティー美術展実行委員会
  • 共催:池田記念美術館/社会福祉法人桐鈴会/医療法人社団萌気会
  • 後援:南魚沼市/南魚沼市教育委員会

お問合せ先
●萌気会事務局 TEL025-781-6155
 〒949-6772 新潟県南魚沼市二日町205-6
●池田記念美術館 TEL025-780-4080
 〒949-7302 新潟県南魚沼市浦佐5493-3

千児観音が結ぶ高屋肖哲と黒岩卓夫

在宅医 黒岩卓夫(有沢昱由 画)

ここに私たちは、千児観音という一枚の仏画に出会いました。一児観音といえば、明治初期の有名な狩野芳崖の悲母観音(一児観音)です。
この狩野芳崖の四大弟子の一人で芳崖の志を継いだ唯一の画家です。高屋肖哲が千児観音を描き切りました。
高屋肖哲は慶応2年生まれ(1866~1945)、一人笈を背負い、日本画家を目指して岐阜から上京し、狩野芳崖に師事し、現国立東京芸術大学の一期生となりました。卒後教壇に立つもこれに飽きたらず市井に埋もれ、寺院に寄寓し、観音図作成に没頭しながら、日本美術界表層から姿を消して行きました。
私たちが高屋肖哲に出会ったのは2018年東京の泉屋(せんおく)博古館分館で企画された「狩野芳崖と四天王展」でした。
観音の膝下に群集する千児を描きました。その千児が救いを乞うだけでなく、「一体の観音」を生み出したのではないかと大きな衝撃に襲われました。
この日から私たちの「高屋肖哲千児観音チャリティー美術展」活動が始まりました。そのなかで、在宅ケアで頑張る障がい児への支援をテーマにしたいと思います。
千児が生み出した新しい悲母観音は、万児を幸せにすることを信じて、新潟県の魚沼の小さな「南魚沼市立池田記念美術館」で今夏開催することになりました。
また肖哲は一生を懸けて、ものに憑かれたように観音を描きつづけ、苦悶の末、晩年悟りを得たように面様、肢体、持物の異なる十種観音(白描)を得ました。肖哲はこの十種観音図(黒岩所蔵)を秘蔵すべきものとして、己の魂を傾注した遺作としました。
さらに肖哲は密教の世界を表す両界曼荼羅図(特定された作品は残っていない)を描き、千児観音図と十種の正観音図を三大遺作と記しています。
本展覧会では、国から依頼された肖哲の代表的な国宝の模作、普賢菩薩像(東博所蔵)を配し、両界曼荼羅図も添えて構成することになりました。
なお、この企画を推進した私たちの一人黒岩卓夫は、時代も異なり第二次世界大戦の世代ですが、信州の山村で戦後の貧困から医師をめざしました。表紙の満州難民の不幸な母子、妹と弟は黒岩卓夫の母と妹と弟です。そして大学での医療に疑問を持ち東京から雪深い魚沼に埋もれ、地域医療の大きな流れをつくった医師であり、今回の企画も高屋肖哲に共鳴し、志を同じくする者であると御理解下さい。

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